PROJECT
案件を知る プロジェクトストーリー
アンモニア燃料船の実用化を目指して。 より高性能なアンモニア分解触媒への挑戦。

2050年カーボンニュートラルの実現を見据え、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして注目されているアンモニア。排ガス処理の分野において多数の実績を誇る日揮ユニバーサルは、アンモニア分解触媒もラインアップに取り揃えています。
今回は、アンモニア燃料船の就航を目指す一大プロジェクトに参画。より高性能なアンモニア分解触媒を開発すべく、営業、研究、生産技術、製造がバトンを繋ぐ――その奮闘を追いました。
世界に先駆けて新しい技術を世に出したい。 お客様と社内技術者の想いが実を結んだ
営業脱炭素社会へ向かう世界的な流れの中で、クリーンエネルギーへの転換は喫緊の課題です。化石燃料に代わる新たな選択肢として注目されているのが、CO2を排出しないアンモニア。一方でアンモニアには独特の匂いと有害性があり、さらに燃焼時にはCO2より地球温暖化係数の高い窒素酸化物が発生するという課題があります。今回のクライアントである船舶のエンジンメーカー様から「アンモニアを燃料として動く船を実用化したい」と相談を受けたとき、当社はすでに、アンモニア燃焼時における窒素酸化物の副生を抑制する触媒の技術を有していました。しかし、お客様の性能向上への要求は厳しく、業界初の試みゆえの困難が次々と立ちはだかりました。営業は、お客様と社内技術者の間に立つ橋渡し役でもあります。世界に先駆けて新しい技術を世に出したいという想いは皆同じ。お客様が求める最高の性能と、私たちが現実的に提供できる性能を丁寧に擦り合わせ、お互いが納得できる形に落とし込むことに注力しました。結果として、研究、生産技術、製造のすべてを自社で担う一貫体制と共に、実験データの取得やシビアな納期にも柔軟に対応できることが評価され、無事に案件受注に至ったのです。
試験運転で明らかになった課題。 原材料を見直し、触媒の性能向上に取り組む
研究アンモニアの排ガス処理には、アンモニア分解触媒と共に脱硝触媒が用いられます。当社のアンモニア分解触媒と脱硝触媒が船舶の実機に採用されて試験運転が行われた際、いくつかの課題が明らかになりました。特に問題とされたのが脱硝触媒の耐久性です。想定より劣化が早く基準の性能を維持できないという指摘を受け、まずは劣化原因の特定に取り組みました。使用前の触媒と使用後の触媒を比較し、劣化のメカニズムを研究所で再現する方法を模索。さらに文献や過去のデータも調査したところ、原材料の調製方法を見直すことで耐久性の向上が期待できるとわかったんです。改良した触媒の試作まで短期間で行う必要があり、より効率的な原材料の調製方法を確立するのには苦労しましたね。先輩たちのアドバイスがあったからこそ、この高いハードルを乗り越えられました。今は、量産を見据えたレシピでの検証を進めているところ。現時点では原材料の段階でのみ性能の向上が確認されており、引き続き、本製品である脱硝触媒の改良に取り組んでいきます。仲間と力を合わせて生み出した新たな触媒が、世界的な脱炭素の流れを加速させる。そう考えると、とてもワクワクします。
需要が高まるアンモニア分解触媒の 安定供給を可能にする体制を築きたい
生産技術・製造生産技術センターでは、研究所で考案したレシピをもとにした工場での量産試作を担当しました。今回のプロジェクトで注力したのは、試作品の性能や外観がお客様の求める厳しいスペックを満たしているかどうか見極めること。初回の試作では塗布剤の付着強度が不十分であったため、研究所と製造部の担当者を交えて解決策を探りました。過去事例の洗い出しも行い、塗布材の配合比を変えることにより付着強度が向上。無事に良好な触媒を得ることができました。生産技術センターと密に連携する製造部の役割は、高品質な触媒を安定的に生産することです。試作段階では原材料が確定していなかったので、複数の原材料候補の入荷時期を考慮した上で納期に間に合うようスケジュールを組み立てていきました。アンモニア分解触媒と脱硝触媒という2種類の製品を同時に生産する必要があり、それぞれの生産をスタートするタイミングや品質管理には特に注意を払いましたね。このときに納品した触媒はアンモニア燃料船の試験運転で用いられ、さらなる性能向上を目指した研究と試作が進行中です。今後、アンモニア燃料船が実用化されれば、当社のアンモニア分解触媒と脱硝触媒の需要は飛躍的に高まるでしょう。今後の生産量増加を見据え、プロジェクトに関わるメンバー全員で一丸となって、安定供給を可能にする体制を築きたいと考えています。